漢方でなんとかしたい!

中医学講師30年。漢方や中華圏の文化とか書きます。

Q41 玉の痒みをなんとかしたい!

 陰嚢搔痒症は陰嚢湿疹ではないのに陰嚢が痒くなる病気です。がぶれが原因で起こる湿疹とは違うので抗ヒスタミン剤やステロイド剤を使用しても治りません。治らないので当然長く悩まれている方が多くなります。

 陰嚢の耐えがたい痒みは所かまわずで男性の生活の質を低下させ気分を暗くさせます。

陰嚢搔痒症について中医学の文献を調べると「腎嚢風」「陰嚢風」という記載が陳実巧(1555~1636)が著した《外科正宗》(1617年)にあります。この本には紫雲膏や消風散など皮膚病に使う漢方薬も載っていますね。

腎は中医学では「生長発育・生殖」を主る(つかさどる)と考えます。中国最古の医学書「黄帝内経」には二八にして腎気盛ん、天葵(てんき・性ホルモン?)至る、精気漏れ溢れ、陰陽和す、故に能く子ありとありますが16歳で精通して子供が作れるようになるという意味ですね。その続きは、三八にして腎気平均、筋骨は勁強、故に真歯生え長じ極まる。と男性の身体は8の倍数で変化(生長)をしていくと書いてあります。その後四八(32歳)がピークで五八(40歳)では、腎気衰え、髪は堕ち、歯は槁れる(かれる)と下り坂を迎えます。紀元前 春秋戦国時代あたりに出来たであろう本の記載が今でも十分に納得できる内容なのに驚きます。

 さて、腎気の状態を年齢から察するのは個人差もあることであり大雑把ですが、「類証治裁」には「睾丸は腎の外候」、「中西医椊」にも「外腎、睾丸なり」という記載があります。睾丸の容積は12歳ころに急激に大きくなり17~18歳で成人並み、50歳ころに次第に減少、60~70歳では15、6歳並みに減少、60歳では著しく減少し、陰嚢は外皮の弾力性が減退し皺の襞が多くなりだらりと垂れ下がるようになります。これは個々で観察のできることですから自身の腎気の状態を知る手がかりになるでしょう。

 陰嚢の状態=腎の生理機能の状態と考えるとよいと思いますが、腎嚢風の風とは中医学ではどういう意味でしょうか?

 中医学で風というのは病態を表します。自然界で急に吹いて急に止まる風のように症状は急に現れ急に治ります。風邪(カゼ)をイメージするとわかりやすいですか? 中風(脳梗塞)は急に倒れてしまいますね。陰嚢搔痒症の痒みも急に痒くなり急に治ります。また風は移動しますので病変部位は変わります。陰嚢のあっちこっちが痒くなります。だから陰嚢風と呼ばれるのです。

 皮膚が乾燥すると痒みがでてきますがこれを「血虚(陰虚)生風」と言います。陰とは体を潤す体液ですが皮膚のような表面だけではなく身体の内部(内臓や関節など)も潤します。加齢とともに人間は陰が不足して乾燥がでてくるので皺も増え乾燥した秋には痒みがでてきますよね。また眼球が乾けば乾燥感や涙目、関節の軟骨が乾くと痛みが出てきます。

 年齢と共に腎気が衰えると気は体液を身体にとどめておくことができず体液は漏れはじめます。汗や尿、涙などですね。陰嚢もそのため湿り気が出てきます。この湿り気が痒みの原因にもなるでしょう。また腎の陰が不足し痒みが出て来ることもあるでしょう。

 腎は「水を主る」という言葉もあるので排尿の障害、前立腺肥大や前立腺炎を伴うこともあると思います。

 漢方薬では腎気や腎陰を補う八味地黄丸や知柏補腎丸を体質を考慮して使い分けまた下腹部の血液の鬱滞を取るため血府逐瘀丸を併用するというのがひとつのやりかたでしょう。

 腎嚢風の考え方は他にもありますが多いと思われるパターンを紹介しました。

陰嚢搔痒症は綉珠風(シュウキュウフウ)とも呼ばれます。美しい珠という意味です。いとおしい珠の状態を是非完璧にしていただきたいです。

 

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