漢方でなんとかしたい!

中医学講師30年。漢方や中華圏の文化とか書きます。

落語 崇徳院の若旦那に思う(こころと漢方)

落語の「崇徳院」をご存知でしょうか?
さる大家の若旦那。上野の清水さんへ参詣し茶店で休んでいると「齢は十六七の水もたれるような」美しいお嬢さんがお供の女中を連れて入ってきた。若旦那は一目惚れしてしまうが、名前も聞かずに別れてしまう。それから寝ては醒めお嬢さんの事ばかり考えるようになり食事も咽喉を通らなくなってしまった。そのため段々衰弱してきてお医者様の言うにはもう5日もつかどうか。最後に往診したお医者様はこれは気の病だからどんな薬を飲んでも治らない。しかし本人の思いがかなえられればたちどころに治るだろうと言って帰っていった。
 そこで幼馴染の熊五郎が若旦那の思いことを聞き出しに行くとお嬢さんに会いたいということ。しかし名前も住所もわからず手がかりは茶店の帰り際に手渡された短冊だけ。短冊には崇徳院の歌が「瀬をはやみ岩にせかるる滝川の」と上の句だけ書いてある。
 もしお嬢さんを探し当てたら三軒長屋をくれてやると親旦那に言われた熊五郎は銭湯から床屋まで「瀬をはやみ」を歌いながら探しまくる。何件目かの床屋で「瀬をはやみ」を歌っていると、男が床屋に飛び込んでくる。実はお嬢さんのほうも若旦那のことを思って恋煩いが過ぎて今日か明日も知れぬ身になりむこうの家でも店中で若旦那を探しまくっているという。
 こうして若旦那とお嬢さんは再び巡り合いハッピーエンドになります。
落語ですので軽く表現されていますが、中医心理学では感情が過ぎると臓腑気血の働きが失調し病気になるという七情理論があります。七情とは(喜、驚、憂、思、怒、恐)の感情です。落語の中では「思う」が登場しますね。「思は脾を傷つける」《素問・陰陽応象大論》とあり、思いすぎ(思慮過多)は脾の気を結び(消化器が動かなくなる)ため食欲不振、腹部が張る、気血が不足して痩せ細る、
心神を営養する血液が不足するので精神不安、猜疑心がでてくる、睡眠が浅い、健忘などの症状がでてきます。
 今の時代でも思慮過多(考えすぎ、思いすぎ)からメンタルが不安定になる人が多いですよね。
 宋代、巌用和は思慮過多により心脾が労傷した場合の方剤として「帰脾湯」《済生方》を用いました。明代になると原方にさらに当帰、遠志が配合され今の「帰脾湯」《校注婦人良方》になりました。脳を酷使する方によいと思います。
 落語では他に「千両みかん」の若旦那も真夏にみかんが食べたくなって寝込んでしまいますね。
 この二人の若旦那、最後には願い事がかない病は回復するわけですが、これは中医心理学では「順情従欲」と呼ばれます。病人の意志、情緒に従って病人の心身の欲望を満足させる心理療法です。明代の張景岳は「もし思慮が解けないで病気になる者は感情がのびやかになって欲望がかなえられないと病気はなかなか治らない」と述べています。

  もちろん、診療や面接の中であれやこれや下らないことに思いをめぐらしみだらな欲望や思い、勝手で根拠がない誤った欲望に対しては受け入れるわけにはいきません。ただ診察や面接をしている中で理解しておくとよい療法だと思います。

落語 崇徳院 大阪版 です。

枝雀落語 121 崇徳院

  #中医心理学#崇徳院#帰脾湯#順情従欲

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僕はリラックしたいときは台湾茶道でお茶淹れてます