漢方でなんとかしたい!

中医学講師30年。漢方や中華圏の文化とか書きます。

桃には霊力があり邪を排除しました。(こころと漢方)

北宋の詩人 王安石が元旦の人々の様子を詩にしています。
爆竹の音を聞きながら一年を送った
暖かい春風のなか、屠蘇を飲む
払暁の陽光が家々を照らす
皆、旧い桃符を新しいものに取り換える

爆竹声中一歳除 (爆竹声中一岁除, )
春風送暖入屠蘇 (春风送暖入屠苏。)
千門万戸曈曈日 (千门万户曈曈日,)
総把新桃換旧符 (总把新桃换旧符。)
桃符とは昔の人は魔よけの作用を持つと信じていた桃の木の板に神様の絵や名前を書き、玄関、入り口に掛ける習慣があって、それは今の「春聯」に発展しました。西王母が手に持っているのも桃ですし、鬼ヶ島に鬼退治に行ったのは桃太郎ですね。甘栗太郎ではありません。桃には霊力があるのです。

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春節におめでたい言葉を赤い紙に書いて玄関に貼ります。「春聯」
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西王母と長寿の桃

道教の儀式でも桃の木で作った剣を使用します。天台密教の羽田守快師のブログにも桃で作った数珠のお話がありましたので紹介します。
https://blogs.yahoo.co.jp/hukurousennninn/15584746.html
古代、十月九日を過ぎてもお腹は大きいままで出産しない場合、道士が呼ばれて桃の木の剣でお祓いをしたそうです。するとドロドロの血の塊がたくさん出てきます。人の形をしていない鬼の子の死骸と考えたらいしいですが、実際は子宮筋腫であったと思います。
中医学でも桃は使います。桃仁といいますがバラ科モモの成熟種子です。強い活血化瘀作用があり、婦人病の子宮筋腫に使い瘀血を除去します。前述の道教のお祓いと同じですね。たぶん医学で使われるようになったのは桃の魔除けとしての考えが影響しているのではないでしょうか?

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桃仁 桃核とも言います。未成熟の果実にはアミグダリンが入っているので注意。もちろん妊婦禁忌です。
北京中医薬大学の郝万山教授の症例ですが、精神分裂症の女性に桃仁を使用した例が紹介されています。生理はなかなか来ないで来ると身体が動き出してしまい外に出て踊りだしてしまう。生理が終わるとそのような症状はなくなる、というものでした。
郝万山先生は生理が不順なこと、傷寒論の中の処方で「其の人狂の如し」と書いてある桃核承気湯を使いました。処方中には桃仁が入っています。病人は生理になると多量の血液が出ましたが、却ってスッキリし、発作はなくなりました。たぶん下腹部の瘀血が化熱し血分に入り心神を乱したのでしょう。
現代薬理では桃仁は子宮収縮を促進して血液凝固に拮抗し血液循環を改善し脳血流量を増やし鎮静する作用が確認されています。
前のブログで紹介しましたが精神異常が起こる疾病には「痰」と「瘀血」があります。血瘀症のガイドライン 活血化瘀専門委員会 (2010)では診断基準に精神異常 神志異常(うつ病 てんかん 自律神経失調症 認知症を含む)を加えました。
 今後の漢方薬による精神医療では「瘀血」は注意しなければならない致病因素でしょう。

せいざんしゃ.com / 吉祥 桃念珠