漢方でなんとかしたい!

中医学講師30年。漢方や中華圏の文化とか書きます。

現代中薬学解説 幻の最後の章(駆虫薬)

[駆虫薬とは]

 寄生虫を駆除あるいは殺滅させる主要作用がある薬物。
 この章の寄生虫は「腸管内」で「よく見られる」「比較的大きな」寄生虫(蛔虫、条虫)である。服用後、麻痺した虫体が腸管の蠕動運動により体外に排出(駆除)させられる。殺虫させる効能をもつ薬物は少ない。故に効能は「駆虫」であり「殺虫」とは表現されない。
[効能主治]
 腸虫証に用い、効能は駆虫である。前述のように駆虫薬には殺虫効果がある薬物は非常に少ない。また中薬学で言う「殺虫」は主に外用で皮膚や局部の寄生虫に対して用いている。例えば膣トリコモナス、疥癬虫(ヒゼンダニ)などである。
蛔虫に効果がある薬物は駆蛔虫、条虫に効果がある薬物は駆線虫、両方に効果がある薬物は駆虫と表現すると薬物の選択が理解しやすい。
 腸虫証の症状は、発作性腹痛、腹満、飢餓感、多食あるいは食欲不振、異食症、肛門の搔痒、顔色萎黄、るい痩などがみられる。
[性味帰経]
 駆虫が目的であり寒、熱は問題にならない。薬味については「虫遇酸則静」、「遇辛則伏」「虫得苦則下」など酸味、辛味、苦味を古人は考えていたが完全ではない。実際の味が記載されており臨床的な意義はない。帰経は脾、胃、小腸と表記されるが駆虫薬は臓腑に対してではなく虫体に作用されるものなので帰経も臨床的な価値はない。
[配合応用]
 瀉下薬と配合する。これは虫体を大便と共に排出させる(排虫)他に駆虫薬が体内に吸収されないようにして人体の生理機能に不良反応が起こらないようにするためである(排薬)。
[使用注意]
 寄生虫の種類により適切な薬物を選ぶ。空腹時に服用することで効果的に虫体に作用させる。効果があれば服薬を停止する(中病即止)。寄生虫が小腸で活動していて激しい腹痛、発熱がある場合にはしばらく駆虫薬は用いない。駆虫薬で刺激すると胆管蛔虫症、小腸穿孔を起こしてしまうので寄生虫が静止するまで待つ(安蛔)

【1】使君子(しくんし)

[基原]シクンシ科のインドシクンシの成熟果実。
[性味帰経]甘、温。帰脾、胃経。
[効能]①駆蛔虫
[解説]漢代 潘州の郭という下級役人(使君という役職)が発見したので命名した。
①作用:蛔虫病に用いる。甘味があり苦くなく芳香性がある。服薬しやすく安全性が高いので小児に適している。しかし作用は緩和なので小児の蛔虫病には二、三日間服用させる。
[用量用法]
嚼服(咀嚼しながら服用)小児は一歳につき一日1粒~1.5粒。20粒を越えてはならない。
[使用注意]
熱い茶と同服、過量に用いると呃逆(あいぎゃく:しゃっくり)が止まらなくなる。

【2】苦楝皮(くれんぴ)

[基原]センダン科センダンやトウセンダンの樹皮や根皮。
[性味帰経]苦、寒。有毒。帰脾、胃、肝経。
[効能]①駆蛔虫 ②殺虫
[解説]トウセンダンの果実が川楝子である。
①作用:作用は駆虫薬の中で一番強い。非常に苦く小児には適さない。また毒性があり有効量と中毒量の差があまりなく用いにくい。有効成分のトウセンダニンの含量は栽培地、春夏秋冬、部位、保存方法により異なるため医師が量を把握しにくい。この点が目下解決しなければならない問題である。
②作用:川楝子と類似する。疥癬虫(ヒゼンダニ)による皮膚掻痒に外用する。

【3】南瓜子(なんがし)

[基原]ウリ科カボチャの成熟種子。
[性味帰経]甘、平。帰胃、大腸経。
[効能]①駆条虫
[解説]
①作用:甘味があり服用しやすいが量は研末にして60~120g用いなければならない。条虫の中後段孕卵節片を麻痺させる。

【4】鶴草芽(かくそうが)

[基原]バラ科キンミズヒキの冬芽。
[性味帰経]苦、渋、涼。有毒。帰肝、小腸、大腸経。
[効能]①駆条虫 
[解説]
①作用:瀉下作用もあり虫体を排出することもでき駆条虫の要薬である。単用で研粉を早朝空腹時に服用すれば服薬後5~6時間で虫体を排出する。
[用量用法]30~50gを粉にして頓服する。本品は条虫を痙攣させ殺滅することができる。頭節、頸節、体節に作用する。有効成分のアグリモフォルは現在化学合成できるので生薬として用いる機会は少ない。またアグリモフォルは不溶性のため煎薬にはしない。

【5】檳榔(びんろう)

[基原]ヤシ科ビンロウジュの成熟種子。
[性味帰経]辛、苦、温。帰胃、大腸経。
[効能]①駆虫 ②行気導滞 ③利尿
[解説]
①作用:蛔虫、条虫に作用するが駆条虫に適している。特に豚肉条虫に効果がある。駆条虫する場合には南瓜子と相須の関係で用いる。檳榔は条虫の前半部分
(頭頸部と成熟していない節片)を麻痺させ南瓜子は後半部分(成熟している節片)を麻痺させる。最初に南瓜子を服用させ2時間後、南瓜子が小腸で効いてきた頃、檳榔60~120g煎薬を服用させる。30分後南瓜子と檳榔が効いてきた頃さらに芒硝15gを冲服し瀉下通便させ虫体を排出させる。
②作用:行気消脹作用。脾胃の気機阻滞による脘腹脹満に用いる。また痢疾の大腸気機阻滞による裏急後重に用いる。焦三仙に檳榔を加えると焦四仙になる。
導滞作用。緩瀉と通便作用のことである。
③作用:強くはないが水腫、脚気腫痛に補助的に用いられる。
[附薬]大腹皮(だいふくひ)檳榔の果皮。緩和な②、③作用はあるが①作用はない。

【6】雷丸(らいがん)

[基原]サルノコシカケ科ライガンキンの菌核。
[性味帰経]苦、寒。帰胃、大腸経。
[効能]①殺虫
[解説]サルノコシカケ科で茯苓、猪苓と同じ科。雷丸はタケ類の根茎に寄生する。竹苓とも呼ばれていた。
①作用:条虫病、蛔虫病に用いる。腸管の寄生虫を殺滅させる。成分のタンパク分解酵素は虫体を分解する作用がある。
[用量用法]タンパク分解酵素は60℃で活性を失うので煎薬でなく散、丸剤とする。1日3回、3日間食後に服用。

【7】鶴虱(かくしつ)

[基原]キク科ヤブタバコ、セリ科ナニンジンなどの成熟果実。
[性味帰経]苦、辛、平。帰脾、胃経。
[効能]①駆蛔虫
[解説]
①作用:蛔虫病に用いる。

【8】榧子(ひし)

[基原]イチイ科シナガヤの成熟種子。
[性味帰経]甘、平。帰肺、大腸経。
[効能]①駆虫
[解説]
①作用:蛔虫病、条虫病に用いる。甘味で平性無毒なので胃気も損傷せず緩瀉作用もある。しかし作用は緩和である。

[確認問題]

(1)甘味で芳香性があり苦くなく小児の蛔虫病に適する薬物は。
A檳榔 B使君子 C南瓜子 D榧子 E雷丸
[解答]B
(2)大量に使君子を服用した後に出現する不良反応は。
A大便秘結 B黄疸 C呃逆 D腹瀉 E以上すべて違う
[解答]C
(3)行気利水の効能を持つ駆虫薬は。
A檳榔 B鶴草芽 C雷丸 D南瓜子 E榧子
(4)雷丸の用法は。
A先煎 B後下 C包煎 D散、丸剤 E諸薬と同煎
[解答]D
(5)駆条虫作用のある薬物は。
A使君子、苦楝皮、鶴草芽 B檳榔、南瓜子、鶴草芽 C苦楝皮、雷丸、檳榔
D榧子、貫衆、使君子 E南瓜子、苦楝皮、榧子
[解答]B
(6)性味が苦寒で有毒であり疥癬の治療に選ぶべき駆虫薬は。
A使君子 B檳榔 C苦楝皮 D貫衆 E雷丸
[解答]C
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