漢方でなんとかしたい!

中医学講師30年。漢方や中華圏の文化とか書きます。

漢方を勉強したいのか? 中医学を勉強したいのか?

中医学と漢方(和漢)、生薬学がゴチャゴチャ

現場で和漢をされている先生方とお会いする機会が最近増えました。お互い、和漢と中医学の違いについては理解していて線をひいていますので逆に話が通じやすいです。

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医聖張仲景。傷寒論は和漢でも中医学でも重要な医学書です。

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中医学が日本に入ってきたのは中国との国交が正常化されてから。風邪薬銀翹散は当時日本では受け入れられませんでした
ところが初学者に多いのですが、君は和漢を勉強したいのか、中医学を勉強したいのか、生薬学を勉強しているのか? と聞きたいときがあります。多分 自身も理解していないと思います。

和漢(漢方)は江戸時代からの医療で、中国からの医学書、医学が源流にありますが、さらに日本で独自に発達していきました。

中医学は中国伝統医学のことで、長い歴史の中の実践で「理・法・薬・方」が確立されています。

生薬学は草根木皮が研究対象ですが考え方は生化学・薬理学であり、和漢、中医学とも異なる学問です。

和漢・中医学の用語の違い(1)

実証と虚証
僕は中医学のほうが専門ですので中医学の立場から説明しますが

実証とは人間の正気(抗病能力)と邪気の抗争している状態を指します。お互いが互角で激しい病理反応(悪寒発熱)が出ます。病理過程で生じた火や気滞、瘀血、痰飲も実です。

虚証とは人間生命を維持するために必要な気・血・陰・陽の不足を指します。

例えば、カゼをひいて高熱が出ている段階では「実証」ですが、発汗してだんだん体力がなくなってきた段階では「虚証」になります。
同じ人間でも病態が変われば虚実は変化し複雑になります。もともと気虚体質が飲み過ぎでお腹に水が溜まれば虚実夾雑の状態です。同じ人間の身体の中に虚もあり実もある状態が生まれます。

実証には去邪、虚証には補法を使います。

カゼに使う「桂枝湯」ですが、巷で「虚弱者のカゼ」と説明しているのには驚きです。カゼは実証です。中医学では風寒感冒です。風邪は開泄する作用があるので皮膚の肌理を開き汗を排泄させるのです。決して虚弱だから汗がでるわけではありません。桂枝湯は風邪を散らす処方です。和漢では「太陽中風証」というのでしょうか? 太陽(人間の陽気が未だ消耗しておらず充実している状態)で風邪に中った(あたった)ということですね。

和漢・中医学の用語の違い(2)

気血水
中医学にはない用語です。人間の構成要素を言うのなら中医学では「気血津液」と言います。和漢の水に当たる部分が津液です。津液は生命を維持するために必要な体液をさし、身体の表面や浅部にあり皮膚や内蔵を潤すものを津、身体の深い部分にあり関節などがなめらかに動けるようにするものを液と言います。

病理では水という表現はありますが、中医学では湿(目には見えない水。湿気)・水(目に見える水。浮腫。小便不利)・飲(やや粘性のある水。サラサラした鼻水、痰)、痰(粘性のある水)というふうに更に分類し治療法が異なります。化湿、利水、化痰。

和漢・中医学の用語の違い(3)

柴胡剤
和漢の先生はよく柴胡剤という言い方をしますが、中医学ではあまり聞きません。
中薬では柴胡の効能として
1 解表退熱・・・小柴胡湯(黄芩と配合して少陽病の解熱に用いる。生。量は多め)
2 疏肝解鬱・・・逍遥散(肝気鬱結に用いる。酢で炒める)
3 昇挙陽気・・・補中益気湯(臓腑の下垂に用いる。生または酒で炒める。量は少ない)
と習います。ゆえに中医学では柴胡剤とひとくくりにはしません。

ざっくりと,和漢と中医とは違うんだなぁと思うことを書きました。

どっちが良くてとかいう次元の低い話ではなく、これから勉強しようと計画されている薬剤師さんはご自分がどっちを勉強していくのかあるいはどっちを勉強しているのか、理解して進んでいかないと、途中で混乱してくると思います。

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